読んだ論文を復習のために要約します。本文元も載せてありますので、ご興味のある方はお目通しください。
<題目>前十字靭帯損傷後のスポーツへの復帰:研究と現場の橋渡しとして
<著者>Roberto Arias,Jerry Monaco,rad J. Schoenfeld,
<本文>https://docs.nsca-japan.or.jp/ceuquiz/31_4_28-37.pdf
目的
本稿の目的は、前十字靭帯(以下、ACL:anterior cruciate ligament)損傷後に行う再建術後いかに安全かつスムーズにスポーツ復帰させるかを研究レビューを行いエビデンスに基づく方法を結論づける為である。
結論
結論として、術後の回復を成功させるには、綿密に計画されたリハビリテーション過程と、外科医とリハビリテーションチームとのコミュニケーションがきわめて重要である。 再受傷の可能性を最小限に抑えることに関しては、段階に応じた動作やトレーニングの神経筋、またバイメカニクス的影響を十分に考慮すべきである。治療全体を通して、復帰への万全な準備に取り組むべきである。
背景
そもそもの背景として、 ACLの損傷は、あらゆるレベルのアスリートが経験する可能性のある、最も発生頻度の高い傷害のひとつである。非常に多くの変数がかかわっているため、どのように、そしてなぜ損傷が生じるのかについては多くの論争がある。さらに、できるだけ早く、かつ安全にスポーツに復帰するために取るべき適切な手段についても、様々な提案がある。しかし、傷害からの回復とスポーツへの実際の復帰における大きな問題は、ACL損傷後にアスリートが実行すべきゴールドスタンダードや、一貫した活動指針がないことである。
研究レビュー
一般的なACL再建術
一般的な手術法は、関節鏡を用いたACLの修復である。断裂したACLを再び繋ぐことはできないため、切除して再建する必要がある。ACLには、大腿骨と脛骨を繋ぐ2本の主要な束があり、前内側束と後外側束がある。従来、外科医は、移植片を前内側束にのみに移植する一重束再建術を行なうことが一般的であった。一重束再建術では、大腿骨と脛骨に骨トンネルを作り、そこで固定具を使って移植片を固定する。現在では、二重束再建術がより広く用いられている。この手術では、小さな移植片を2つ使い、両方の束をそれぞれ再建して移植するが、2つの骨トンネルを作るため、さらに切開する必要がある。二重束再建術は、通常、時間もより長くかかるが、再建された靭帯がより正常に機能する。二重束再建術は新しい術式であるため、その長期的な有効性や、本当に利点があるのかについては、今後さらに研究が必要である。
術後直後
手術直後の回復期の主な目標は、能動的、受動的な膝関節可動域の0~90°までの膝関節屈曲可動域回復、大腿四頭筋の再活性化、術後浮腫の軽減、および膝蓋骨の可動化である。通常、術後には膝関節の完全伸展可動域が3~5°低下するが、これは将来の競技の成功に悪影響を及ぼす可能性があるため、急性期に膝関節の完全伸展まで可動域を改善することが必須である。これは、術後に膝を完全に伸展させるために、伏臥位で負荷をかけて膝をストレッチすることで改善できる。さらに、大腿四頭筋の継続的な筋力向上は神経筋電気刺激によって補強できるが、この方法は、大腿四頭筋の強化に役立つ運動ニューロンの動員を助けることが示されている。治療対策には、ウォールスライド、痛みを伴わないステップアップ、椅子立ち上がりなどの自重エクササイズが含まれる。
亜急性期
次の段階では、動的ストレッチングと動的姿勢制御、および筋パフォーマンスの向上と関節可動域の拡大を目的としたストレングスエクササイズを行なう。低負荷血流制限トレーニングは、これらの方法の有効な補助手段であり、高負荷トレーニングに比べ、膝の関節痛や滲出液を減少させながら、筋力と筋肥大を促進できる。亜急性期の終わりに、患者は「膝関節アウトカム調査-日常生活活動尺度」に記入する必要がある。この自己記入式の質問票では、日常生活や競技中の身体的障害の割合が示され、得点比率(%)が低いほど障害の程度が大きいことを意味する。次の段階や基準目標に進むためには、患者のスコアが65%以上あることが推奨される。
機能改善段階
この段階は、競技への復帰を目指すアスリートにとっては、競技能力を回復するために非常に重要である。高いレベルの競技への復帰を望む場合は、適切な予防措置を講じなければ再受傷する可能性があることを認識し、リハビリテーションのガイドラインに継続して従う必要がある。
スポーツへの復帰
最終段階として、動的安定性の機能的評価を実施することが推奨される。復帰に必要な重要要素をすべて網羅した唯一の評価法は確立されていない。しかし、よく知られているテストには、シングルレッグホップ(距離)、クロスオーバーホップ(距離)、トリプルホップ(距離)、6 mタイムホップなどがある。また、競技スポーツへの復帰前に、患者が、方向転換、加速、減速などを用いたスキルを練習することも有益である。再受傷のリスクを避けるためには、動作の質が重要である。 リハビリテーションを終了したアスリートは、スポーツへの復帰を強く望むかもしれないが、焦って時期尚早に復帰してはならない。
エクササイズに関する留意点
CKC(クローズドキネティックチェーン)とOKC(オープンキネティックチェーン)のいくつかのエクササイズにおいては、ACLにかかる負荷の値にわずかな差しかないことが示されている。Mikkelsenらは、どちらか一方を単独で実施するよりも、両タイプのエクササイズを組み合わせて実施するほうが、実質的な利益があることを明らかにした。 再受傷のリスクを抑えるためには、選手はスクワット、ジャンプの着地、減速、方向転換などの動作を、正しい動作で完遂できなければならない。時間をかけて自信をつけるためには、リハビリテーションの後期に、これらの競技動作に徐々に触れる必要がある。徐々に、競技特異的なスキルを再現するために、アスリートは構造化されたクローズド型の練習動作から開始して、徐々にランダム化されたオープン型の練習動作に移行するべきである。
現場への応用
ACL損傷後のスポーツへの復帰について、現時点では「ゴールドスタンダード」は存在しないが、患者は通常、6 ヵ月を目途にリハビリテーションを終える。ただし、膝関節の機能の改善は手術の2年後まで続く。したがって、このリハビリテーションの段階で、エビデンスに基づく方法に裏づけられた、プレーの基準を満たす介入を実施することが重要である。
ACLの二次損傷リスクは、適切な治療が施されることで著しく減少する。ACLの二次損傷は、ACL再建術を受けた患者の約20~35%で起こる(9,19)。また、リハビリテーションを9 ヵ月に延長しRTSを延期すると、再受傷率が51%減少した。競技復帰前の大腿四頭筋の筋力不足は、膝の再負傷の主要な予測因子であることが明らかになっており、大腿四頭筋の筋力が1%向上するごとに、再受傷の割合は3%減少する。
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